今回は、私がここ4年ほど夢中になっている「ビオラの自家採種と種まき」について、実体験をまとめてみたいと思います。
テーマはずばり、「お気に入りの『美人さん』から採った種は、親と同じ顔で咲くのか?」です。
2022年の秋、私はお気に入りの品種「よく咲くスミレ」の種を採って蒔きました。「この美しい花を、来年もまた見たい」という単純な動機からです。
そして翌2023年の春、実際に咲いた花たちを見て、ある興味深い事実と、植物の遺伝子の不思議に触れることになりました。
今回は、種まきから開花までの記録と、そこから見えてきた「色ごとの傾向」や「予測不能なガチャ」の結果をレポートします。
【検証にあたっての補足】
今回ご紹介する「自家採種のビオラ」は、主に「よく咲くスミレ」から採った種がベースですが、私の庭には他の品種のビオラも一緒に植えています。
そのため、ハチさんが運んだ花粉によって他の品種とミックス(交雑)していたり、気に入った別の苗から採った種が混ざっていたりする可能性があります。
純粋な「よく咲くスミレの子供」だけでなく、「我が家の庭で生まれたオリジナルミックス」として楽しんでいただければ幸いです!
きっかけは「この遺伝子を残したい」という親心
私が育てているのは、サカタのタネさんのロングセラー「よく咲くスミレ」というシリーズでのミックスです。
私が愛用しているのはサカタのタネさんの『よく咲くスミレ』シリーズ。
パンジーの華やかさとビオラの多花性をあわせ持つ、非常に優秀な品種で、名前の通り本当によく咲いてくれます。
3年ほど前、たくさんの花の中から「おっ、この子は特別かわいい!」と心惹かれる株に出会いました。(私はこれを勝手に「美人さん」と呼んでいます)
絶妙な色のグラデーションや、愛らしい花弁の模様。「この美人さんの遺伝子を来年も残したい」。
そう期待して種を蒔き、冬の寒さに耐えさせ、春を待ちました。種代を節約したいという下心も半分ありましたが(笑)、それ以上に「自分の手でこの美しさを繋ぎたい」という親心のような気持ちが強かったのを覚えています。

検証結果:親と同じ花は咲くのか?
結論から言うと、「親と全く同じ花色はほぼ出なかった」というのが正直なところです。
2023年の秋にいくつかの色から採った種を蒔き、2024年の春を迎えました。
「あの子の子供だから、きっと同じ顔で咲くはず」と期待していましたが、いざ開花してみると、そこには良い意味で予想を裏切る結果が待っていました。
もちろん、親と「似たような雰囲気」の子は咲きます。けれど、「あ、これぞ去年のあの子だ!」という完全一致はありません。
しかし、それが失敗だったかというと、決してそうではないのです。
「新しい美人さん」との出会い
親と全く同じ顔ではありませんでしたが、その代わりに「前年とは違った、新しい美人さん」がたくさん誕生しました。
こちらの写真をご覧ください。これが実際に咲いた、自家採種の子どもたちです。

「親にはなかった模様が入っている!」
「色が少し変化して、グラデーションが深くなったかも」
そんな風に、私が意図したわけではないけれど、自然が生み出した「一点物」の美しさがそこにはありました。
これは、市販の種を買って育てるのとはまた違う、自家採種ならではの「ガチャ要素」であり、最大の楽しみ方だと言えます。
3年間観察して分かった「色ごとの傾向」
種を採って育てていく中で、ただバラバラに咲くわけではなく、色によってある程度の「傾向」があることに気が付きました。
これはあくまで私の庭での体感ですが、これから種採りに挑戦する方の参考になるかもしれないので、メモしておきます。
1. 色の傾向:ベースは守られるが「お化粧」が変わる
白系の花から採った種からは、やはり「主に白」が咲きました。ここは比較的、親の性質を素直に受け継いでいるようです。
しかし、面白かったのはその「ディテール」の変化です。
ベースは白でも、中央に入る黄色のブロッチ(目)が大きくなったり、逆に消えたり。あるいは、親株にはなかったはずの濃い紫の模様が出現したり、ヒゲのような「ベイン(網目模様)」が入ったり。
全く違う色が咲くというよりは、「バリエーションが増えていく」という印象です。「お母さんはナチュラルメイクだったけど、娘はアイメイクが濃いめなのね」なんて想像するのも楽しいものです。
2. 変化の兆し:バイカラーやベインの出現
全体的な傾向として、単色(ソリッドカラー)だった親から種を採っても、翌年には花弁の上下で色が変わる「バイカラー」になったり、血管のような筋が入る「ベイン」タイプになったりする個体が増えるように感じます。
これは、複雑な交配を繰り返して作られた園芸品種の遺伝子が、世代交代によってほどけて出てきた結果なのかもしれません。
3. 採種の難易度:色によって「壁」がある
また、育ててみて初めて分かったのが「採りやすい色」と「採りにくい色」があることです。
- 赤やオレンジ系:
体感として、種が非常に採りにくいです。花は咲くのですが、種が入った鞘(さや)ができにくかったり、できても中身がスカスカだったりすることが多いです。遺伝的に種ができにくい性質なのかもしれません。 - 水色系(よく咲くすみれから採種したものではありませんが):
種は採れるのですが、年々「花弁が薄くなっていく」傾向があります。買った当初のしっかりとした厚みが失われ、少し儚げな印象に変わっていきます。これはこれで風情がありますが、品種本来の強さは少しずつ失われているのかもしれません。
なぜ同じ花が咲かないのか?「F1品種」と「先祖返り」
なぜ、手塩にかけて育てた「美人さん」の子供は、親と同じ顔をしていないのでしょうか。
これには、市販の種の多くが「F1品種(一代交配種)」であることが関係しています。
「よく咲くスミレ」は、パンジーとビオラを掛け合わせた交配種です。
プロの育種家さんが、異なる性質の親を掛け合わせ、「きれいな色」「丈夫さ」「花付きの良さ」のいいとこ取りをして作ったエリートたち。これがF1品種です。
メンデルの法則をご存知の方も多いと思いますが、このF1品種から採った種(F2世代)は、親の優れた性質がそのまま受け継がれるとは限りません。
隠れていたおじいちゃんやおばあちゃんの性質が出てきたり、交配前の原種に近い姿に戻ろうとしたりします。
『よく咲くスミレ』本来の、あの華やかで整った顔を確実に楽しみたいなら
市販の種や苗を買うのが唯一の正解ですね。プロの仕事はやっぱり凄いです。
野生に戻ろうとする「紫」の力と、強くなる株
4年間続けていてもう一つ感じているのが、「紫色の花が増える」ということです。
ビオラやパンジーの原種(野生の姿)は、道端のスミレのように紫色や黄色をしていることが多いそうです。
つまり、自家採種を繰り返すことで、人間が改良した複雑な色(ピンクやアプリコットなど)の遺伝子が抜け落ち、より野生に近い「紫」に戻ろうとする「先祖返り」が起きているのでしょう。
そして不思議なことに、そうやって生まれた株たちは、買った時の苗よりも「丈夫」な気がするのです。
私の庭の土、日当たり、そして私のちょっとズボラな水やり(笑)。そういった環境に適応し、生き残った強い遺伝子だけが選抜されているのかもしれません。
「色は地味になったけど、生命力は強くなった」
そう思うと、勝手に生えてきたような紫のビオラも、愛おしく見えてきます。
まとめ:0円ガーデニングの醍醐味は「偶然」を楽しむこと
今回の実験で分かったことは、「同じ顔(美形)を確実に楽しむなら、プロが作った種や苗を買うのが一番」だということです。
毎年同じクオリティの花を届けてくれる種苗メーカーさんの技術力には、改めてリスペクトしかありません。
でも、自家採種にはそこにはない楽しみがあります。
- どんな顔が出るかわからないワクワク感(ガチャ)
- 自分だけの「新しい美人さん」との出会い
- 我が家の環境に適応して強くなった株への愛着
前回の記事で紹介した斑入りの葉っぱが偶然の産物であるように、自家採種で生まれる花もまた、二度と同じものは生まれない「一期一会」の芸術作品です。
皆さんも、もしお気に入りのビオラが咲いていたら、少しだけ花がら摘みを休んで、種を採ってみてはいかがでしょうか?
来年の春、予想もしない「新しい美人さん」が、庭で微笑んでくれるかもしれませんよ。
何が出るかわからないガチャを楽しむなら『自家採種』。確実な美しさを手に入れるなら『購入』。
今年の秋はどちらで楽しみますか?


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